- 第28回 : 2016年3月7日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 木村浩 (愛媛大学名誉教授)
- 題目 : 2面体群と Hadamard 行列
- 概要 : n次の行列 H=(±1) が HH^t = nI を満たすとき Hadamard 行列と呼ぶ。「任意の(4で割れる)整数 n に対して常に n次 Hadamard 行列が存在する」が Hadamard 予想と呼ばれているものである。28次 Hadamard 行列を分類した時に2面体群から作れるものがあることを見つけた。これを一般化して
ある条件を満たす4つの多項式を見つければ Hadamard 行列が作れることが示せた。この条件は初等整数論での「4平方の定理」を思い起こす式で他の分野の方にも興味を持ってもらえるのではないかと思っている。一般的な多項式の発見法が見つかれば Hadamard 予想に少しではあるが貢献できる。
- 第27回 : 2016年2月8日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 水川裕司 (防衛大学校総合教育学群)
- 題目 : 有限群のゲルファントペアとその応用
- 概要 : 群Gとその部分群Hに対して,次は同値である.
(1)置換表現C[G/H]がGの表現として無重複.
(2)ヘッケ環C[H\G/H]が可換.
これらの条件をみたされるとき,(G,H)はゲルファントペアという.ゲルファントペア(G,H)に対して帯球関数というヘッケ環のある直交基底が定まるが,これを特殊関数で記述することは表現論の古典的問題である.この問題を有限群のゲルファントペアに限定しても様々な特殊関数を見ることが出来る.そこで,この講演の前半では講演者らの結果も含めて特殊関数の視点から有限群のゲルファントペアを解説したい.
また,有限ゲルファントペアの一つの応用として,G/H上のランダムウォークを考える.このとき,帯球関数を上手く用い推移確率を調べることができる.ダイアコニスはエーレンフェストの壺モデル(壺に入ったボール達の拡散モデル)をあるゲルファントペアから生じる離散等質空間とみなし,帯球関数を上手く用いてその拡散の様子を詳細に調べることで,カットオフ現象が生じることを示した.この講演の後半ではこれの一般化を考え,壺の間に相互作用がある場合を群論的に定式化して幾つかの場合ではダイアコニス流の解析がうまくいくことを見る.
- 第26回 : 2016年1月20日(水) 16:30--17:30
- 講演者 : 見村万佐人 (東北大学大学院理学研究科)
- 題目 : 有界・非有界生成とエクスパンダーグラフ
- 概要 : 正則連結有限グラフの無限列で,「隣接行列の第二固有値が第一固有値(=次数)よりもある程度以上必ず小さい」ものをエクスパンダーグラフ列という(この意味で,ラマヌジャングラフの無限列は "最良のエクスパンダー" ともいえる).マルグリスが気づいたように,「カジュダン(Kazhdan)の性質 (T)」という(ユニタリー表 現に関する)性質をもつ無限群の有限商群の無限列からエクスパンダーグラフ列が作られる.SL(3,Z)
(より一般に SL(n,Z),n は 3 以上)は性質 (T) をもつことが示されているので,{SL(3, F_p)}_p,p は素数,たちの生成集合の系をうまく定めることでエクスパンダーグラフが構成できた.そうすると,次に気になるのは「階数(群のランク)も動かした,{SL(m, F_{p_m})}_m のような列が(よい生成集合の系に対し)エクスパンダーをなすか」という疑問である(この問いは "unbounded rank expander の問題" と呼ばれていた).実は Kassabov によって本問題は 2005 年に肯定的に解決されているが,一番 スッキリする解決は,"mother group" として性質 (T) をもつ群を見つけることである.
このアプローチでの "unbounded rank expander 問題" の解決は 2010 年に Ershov と Jaikin-Zapirain によって与えられた.その証明は 40 ページ強(本当に必要なところだけとっても 30 ページ弱)にもわたる長いものであった.この理由は,今まで性質(T) を示すのに強力な道具だった「Shalom の有界生成を用いた議論(bounded generation argument)」が,今回現れる群には通用しなかったためである.彼らはこの困難を解決するため,幾何的な別なアイディアを用いた.
今回,講演者は Shalom の元の bounded generation argument を発展させて, キモとされていた「有界生成条件」を完全に取り除くことに成功した(したがって,もはや"unbounded generation argument" となってしまった).これにより,Ershov と Jaikinによる結果の,ずいぶん簡明な別証明ができあがった(該当プレプリント arXiv:1505.06728は 15ページほどで,本質的な議論はこの場合 8 ページ程度である).今回は 「有界生成・非有界生成」と「環上定義されたシュタインバーグ群」をキーワードに,この結果について述べる.
※ 上記プレプリントの主結果は別証明を与えたことではなく,Ershov と Jaikin の結果以来の未解決問題の解決である.しかし,これを言い始めるとバナッハ空間など色々 出てきてゴチャゴチャしてしまうので,今回はエクスパンダーグラフへの応用に的を絞ってお話したい.
- 第25回 : 2015年12月21日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 小関祥康 (京都大学数理解析研究所)
- 題目 : CM 楕円曲線に付随する法 p表現の絶対既約性について
- 概要 : 代数体 K 上の楕円曲線のp等分点(p:素数)の成す加群へのKの絶対ガロア群Gの作用は、2次元F_p 表現ρ:G → GL_2(F_p)を定義します。この表現の性質は楕円曲線が CM を持つか否かによって大きく異なることがよく知られています。今回の話では楕円曲線がCM を持つ場合にρがいつ絶対既約になるかという古典的な問題についてお話しします。また、
- モジュラー曲線のCM点との関係
- Rasmussen-玉川予想(あるアーベル多様体の個数の有限性予想)との関係
- 上のρは特定の素点の分解群に制限してもなお絶対既約になる
などの話もします。
- 第24回 : 2015年11月2日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 川節和哉 (東京大学大学院数理科学研究科)
- 題目 : 非許容レベルを持つ W 代数と Deligne 例外系列
- 概要 : W代数は、アフィン頂点作用素代数から、量子化された Drinfeld-Sokolov reduction を用いて得られる、比較的小さな頂点作用素代数である。本講演では、Deligne 例外系列に付随する、ある W 代数の構造を、ある頂点作用素代数の単純カレント拡大として記述する。応用として、それらの W 代数の C_2 余有限性と有理性を示す。これらの性質は、表現の指標のモジュラー不変性を導く。W 代数が C_2-余有限かつ有理的であるのは、レベルが許容数のときのみと予想され、広く信じられてきた。本講演の W 代数のいくつかは非許容レベルを持ち、その予想の反例となっている。
- 第23回 : 2015年10月5日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 吉田知行 (北星学園大学経済学部)
- 題目 : グラフと有限群の再構成予想
- 概要 : グラフ理論における重要な予想としてUlam-Kellyの再構成予想がある.半世紀以上たつが未だ非解決である.この予想は,2つのグラフ $G$, $H$ の頂点集合の間に全単射 $f$ があり,極大部分グラフ $G-u$ と $H-f(u)$ が常に同形なら,$G$ と $H$ も同形になるというものである.この予想の体論版は,2つの代数体のゼータ関数が同じならもとの代数体も同形であろうというものである.これには反例がある.群論版再構成予想も考えられる.これは $G$, $H$ を有限群としたとき,すべての有限アーベル群 $A$ に対し $|Hom(A, G)| = |Hom(A, H)|$ が成り立つなら $G$ と $H$ は同型であろうというものである.セミナーでは,この予想とさまざまな関連する話題(トンプソン予想,米田の補題,バーンサイド環など)を紹介する.
- 第22回 : 2015年9月8日(火) 16:30--17:30
- 講演者 : 伊藤哲史 (京都大学大学院理学研究科)
- 題目 : 平面曲線の定義方程式にまつわる整数論的問題について
- 概要 : 複素数体上において,滑らかな 3 次曲線が別の 3 次曲線の Hessianとして表されることや,滑らかな 4 次曲線が線形形式成分の対称行列の行列式で表されることが古典的に知られています.この講演では,平面曲線の定義方程式に関する古典的結果を概観した後,こうした問題を代数閉とは限らない体上で考えることによって生じる整数論的な問題を紹介します.また,標数 2 の大域体に特有の現象や,標数 2 ならではの困難についても紹介したいと思います.(石塚裕大氏(京大理)との共同研究)
- 第21回 : 2015年7月13日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 奥田隆幸 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : アソシエーションスキームの商についての Delsarte 理論
- 概要 : アソシエーションスキームとは有限集合上に一般化された距離構造を定め,その構造がある種の対称性を満たしているというものである.特にアソシエーションスキーム上では調和解析が展開され, これを統制しているのが Bose-Mesner 代数である.本講演ではアソシエーションスキーム X の商集合 Y を考えたとき,
(1) Y の濃度, (2) Y 上の調和解析, (3) 商写像のファイバーの幾何的性質
の三つの間の関係について得られた定理を紹介する.
- 第20回 : 2015年6月22日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 谷口隆(神戸大学大学院理学研究科)
- 題目 : 概均質ベクトル空間に伴う指標和
- 概要 : 概均質ベクトル空間が有限体上で定義されているとき,各軌道の指示関数のフーリエ変換として指標和が定まる.これは概均質ゼータ関数の関数等式に現れるので,計算ができると,関数等式を用いる理論に応用できる可能性が出てくる.講演では,この指標和の公式がどのような応用をもつかを説明する.また,概均質ベクトル空間が与えられたときに,指標和を計算する一つの方法を紹介する.(Frank Thorne 氏との共同研究)
- 第19回 : 2015年5月25日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 荒川知幸(京都大学数理解析研究所)
- 題目 : W 代数の極小模型
- 概要 : Borcherds によって導入された頂点代数は理論物理学の弦理論の研究に起源を持つが, これまでの多くの研究により有限群論, モジュラー関数, 代数幾何学, トポロジー, 可積分系, 組合せ論などさまざまな分野に応用を持つことが明らかになっている. このような頂点代数の中で最も興味深いもののうちの 1 つが W 代数である. W 代数は Virasoro 代数や“ほぼ全ての”スーパーコンフォーマル代数を特殊な場合として含む極めて大きな頂点代数の族であり, 巾零軌道の理論や非可換幾何学, 幾何学的 Langlands 対応, 4 次元のゲージ理論とも密接に関係する. しかしその構造は極めて複雑であり, そのためその解析は困難であった.しかし最近の理解の進展に伴い,ようやく W 代数の有理性に間する 1992 年のFrenkel-Kac-脇本の基本予想を解決することができた.この講演ではそのような状況を説明したい.
- 第18回 : 2015年4月20日(月) 16:30--17:30
- 講演者 : 松本眞 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : 準モンテカルロ法・超入門(Walsh figure of meritからの)
- 概要 : モンテカルロ積分というのがあります。s変数実数値可積分関数
f(x_1,x_2,...,x_s): [0,1]^s -> R
に対し, その積分値を求めたいとします。[0,1]^sの中に一様ランダムに点をN個発生し、それらの点でのfの値の平均を持って積分値の数値近似とするのがモンテカルロ積分です。数値誤差(の二乗平均のルート)が(fの分散のルートかける)N^{-1/2}のオーダーで減りますが、誤差を100分の1にしたかったらNを10000倍増やさないとならないのって、つらくありませんか。
準モンテカルロ法では、N個からなる点集合Pを、たくみに選ぶことで、誤差のオーダーをN^{-1}近くに減らします。fが従順な関数のときは、s=4くらいならN^{-2}くらいに減ることもあることが、分かってきました。
どうやってPを選ぶとよいかは昔から盛んに研究されています。最近、Josef Dick氏が導入・研究し、松本・斎藤・Matobaらが計算しやすくしたWAFOM(Walsh figure of merit)を小さくするようなPを選ぶというのが一つの方法です。WAFOMは符号理論にも近いです。
準モンテカルロ法というものを全く知らない人にもどんなものなのかわかるようにお話しするつもりです。(でも、「超入門」は詐欺が多いので要注意ですね。)